ジーシフト[株式会社 グローバル・シフト・コミュニケーション]

2011年9月1日 

 

コラム


反省と記憶、脳内物質


「記憶」について

記憶した情報は、ご存じの通り「脳」に記録されます。

「脳」の中では<短期記憶(感覚記憶)>と<長期記憶>という領域があります。

現在のところ<短期記憶(感覚記憶)>は海馬やその周辺に記憶され、<長期記憶>は大脳側頭葉などに記憶されるということがわかっています。
まずは全ての情報が一旦<短期記憶(感覚記憶)>に一時保存され、そして何らかのタイミングや方法で<長期記憶>に保存されるようです。
その記憶される方法の一つとして"感情"が大きく影響を及ぼしていることがわかってきています。
<短期記憶(感覚記憶)>の情報に感情が伴うことにより、感情と共に<長期記憶>の領域へ保存されるという仕組みです。

この記憶方法を体系化したものとして、心理療法のNLP(神経言語プログラム)があげられます。
(NLPに関しては、http://www.gshift.com/bgPsyNLP.htmを参照)

このような記憶の方法をパソコンに例えると<短期記憶領域はフラッシュメモリ><長期記憶領域はハードディスク>と同じ働きをします。

この記憶をするための仕組みとして、脳内神経伝達物質の「セロトニン」が大きくかかわっていることをご存じでしょうか?


「セロトニン」って何?

セロトニンは人体中に含まれる覚醒を促す化学物質です。人体中には約10ミリグラムのセロトニンが存在しているといわれています。その90%は小腸の粘膜内に、残りの8%は血小板へ、そして2%は中枢神経系(脳幹の中の縫線核)にあり、神経情報伝達物質として働きます。
うつ病や神経症などの精神活動に関する疾患は、セロトニンの影響が大きく関与していると言われています。

脳の覚醒を促す物質としては、セロトニンの他にノルアドレナリンがあります。両者の違いは、セロトニンがクールな覚醒(スッキリ、しゃっきりとした感覚)、ノルアドレナリンがホットな覚醒(さあやるぞ、行け行けといった興奮度が高い感覚)、を促すという違いがあります。



「記憶」と「セロトニン」との深い関係

昨年末、理化学研究所よりセロトニンに関する論文発表がありました。
(一部プレス発表概要より抜粋)

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 <<衝動性が生みだす社会問題を脳科学から解明へ
              〜痛い目にあっても学習できないのはなぜ?〜>>

脳内物質のセロトニンが不足すると、行動とその結果生じる損失の間に時間遅れがある場合に、大きな損失を避ける行動の学習を遅らせることを明らかにした。この結果は、何度痛い目にあってもなかなか学習できないといった問題行動に関する脳機構の解明につながる可能性がある。さらには、脳科学の視点から、多重債務などの社会問題の予防法や解決策を見いだすことが期待される。

続き・・・http://brainprogram.mext.go.jp/press/item_243.html

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この実験はトリプトファンというセロトニンを作る物質を被験者に摂取させ、セロトニンの活性度合いを"不足・通常・過剰"の3種類に調整し、行動学習の状況を計測したものです。
モニター上に表示される2種類の図形のどちらかを選択し、図形の種類によって報酬と罰金を課すというゲームを被験者に行わせました。ゲームは「より多い報酬を得る」もしくは「より少ない罰金を支払う」というルールで、その図形が報酬か罰金かは選択後(選択後すぐ、もしくは3問終了後)にわかるように設定されています。


人は日常の中で行動したあとにやってくる結果に対し、成長のために"より良い行動"を学習しなければなりません。そんな中、大きな失敗(痛い目)にあっていながら同じ行動を何度も繰り返してしまう人が最近増えているように感じます。
失敗から学習するということは、「二度と同じ失敗を繰り返さない」ということが大前提です。そのための仕組みとして"結果と過去の行動を正しく関連付けすることができる"ということが重要です。
この実験では、"結果と過去の行動を関連付けする能力"と"セロトニンの活性度合い"との関係性について調査したものです。

調査の結果は、
セロトニンの不足により、結果(罰金)と過去の行動(選んだ図形に対する結果の表示=3問後)に関する学習は遅い。
というものでした。

この結果より、セロトニン不足の状況で罰金(失敗)の際に近い過去(最近)の行動しか振り返ることが出来ない・・・つまり過去に失敗した出来事に関して「痛い目にあってもなかなか学習できない(反省できない)」ということが判明したということになります。


セロトニン不足の状況が起こってしまう原因として色々な説がありますが、「便利な世の中」になってしまった代償のように思えてなりません。
セロトニンは増やすことが可能です。その基本として、リズム運動(呼吸・ウォーキング・咀嚼など)と規則正しい生活(夜寝て、朝起きる)ということを東北大医学部教授の有田秀穂氏は挙げています。

朝・晩の逆転した生活や、歩かない生活、噛まない食生活などからセロトニンは不足していきます。セロトニン不足は現代社会全体の病気とも言えるでしょう。
このような生活環境の中で育ってきた若者達は、きっとセロトニン不足の状況に陥っているのだと思います。いえ、若者だけではないかもしれません。

電車の中での化粧や食事・携帯電話での通話、落書きや夜中の大騒ぎなど、周囲への迷惑行為などはその表れのような気がします。そして、そのような態度を「反省」してもらうにはセロトニンを増やし、結果と過去の行動の関連付けが正しく行えるようにする必要があるのかもしれません。
今までは「なぜ、反省しないのか?」と疑問を抱いてきたことも、私達のつくりあげた社会が「反省」する学習能力をうばっているのではと反省することしきりです。

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