近年、CSRやESG投資そしてSDGsなど、社会的貢献を念頭においたビジネスが求められています。
さらに最近では、持続可能性(サスティナビリティ)に着目した商品やサービス、そして経営にも注目が集まっています。
ここで重要になるのが倫理観です。
倫理的な商売で有名なのが近江商人です。
「三方よし」のビジネスを行っていました。
「売り手よし、買い手良し、世間よし」という言葉は聞いたことがあると思います。
伊藤忠商事の企業理念としても有名です。
このような道徳的な商売・ビジネスを行う商人は「儒商」とも呼ばれます。
儒商ともなるような道徳観を近江商人の多くは、京都で学んだのではないかとされています。
それは、江戸初期の京都、淵岡山(ふちこうざん)の私塾においてです。
淵岡山が師事していたのが、今回ご紹介する 中江藤樹 です。
中江藤樹(なかえとうじゅ)
1608年(慶長13年)~1648年(慶安元年) (40才没)
近江国西高島郡小川村の生まれ、現在の滋賀県高島市です。
関ヶ原の戦いが1600年
江戸開府が1603年
大阪夏の陣が1615年
まだ戦国時代もさめやらない江戸の初期に生まれ、活躍しました。
中江藤樹は農家の生まれでしたが武士の祖父の養子となり、幼いころから才を発揮し学問に励み、米子(鳥取県)から大洲(愛媛県)に祖父と共に移り住みました。
二七歳の時、高島に独り住まいする母への思いから、大洲藩を脱藩し高島に帰郷します。
脱藩は重罪ではありますが、結果として特段の罪に問われず高島での生活が始まります。
二七歳から病没する四〇歳まで、はじめは小さな酒屋を営み暮らし、徐々に門人が増えていきました。
中江藤樹の学びは、大洲藩にいる頃からを遡ると次のようになります。
大学・朱子学
易経
孝経
論語
陽明学
この変遷を経て得たのが
致良知 (ちりょうち) です。
これは、「心の本体である良知を信じること」 ということです。
良知を信じることができれば、考えや行動が良知に基づくものとなり、自然と倫理的な行動となるということです。
では良知を信じていないで倫理的な行動をしようとすると、どのような手段が考えられるでしょうか?
それは、ルール、法律などの外側からの制約です。
中江藤樹が悟ったのは、外的規範を重視する生き方が間違いで、誰もが生まれつき持っている本心を信じるということです。
現代においても、いきなりルール無しという世の中は考えられません。
すぐに悪い影響が拡大してしまうでしょう。
しかし、ルールを細かく決めても倫理的な考え方や行動ができていないと、いくらルールを作りルールを厳格に適用しようとしても抜け道ばかりができてしまうイタチごっことなってしまします。
迂遠なようではありますが、倫理的な考えを多くの方特に経営層や実務リーダーが持つことが、より善い仕事を通したより善い世の中への近道と考えられます。
では、「致良知」となるためにはどの様にすればよいか。
中江藤樹が勧めていたのは、「五事をただす」ことからです。
それは、「視・聴・言・動・思」です。
書経の「貌・言・視・聴・思」とはちょっと違います。
中江藤樹の五事をただすについては、また別の機会に譲りましょう。
また、中江藤樹が伝えていたのは五事だけではありません。
一般庶民や女性向けに読みやすくした本を作ったり、陽明学などの書物に基づいた講義を行っていました。
古典としては、大学や孝経から触れるのもよいかもしれません。
ちなみに、中江藤樹に学んだ人が日本全国で陽明学、と言うより藤樹学を伝え、庶民向けの本「翁問答」がベストセラーになるといった様々なことがあり陽明学は日本の常識として浸透していったようです。
日本の陽明学の開祖、中江藤樹に興味を持っていただけたらうれしいです。
中江藤樹を知るための本は、色々出ています。
私は、この三五館の林田明大氏の本がよかったです。
この記事も多くがこの書によります。
林田氏の本では、「真説陽明学入門」もよいですね。
ご参考となればうれしいです。