利他性の経済学

「情けは人のためならず」という言葉があります。

「国語に関する世論調査」を文化庁が行っています。
2001年1月に行った調査で、以下の設問がありました。

情けは人のためならず
ア  人に情けをかけておくと,巡り巡って結局は自分のためになる
イ  人に情けをかけて助けてやることは,結局はその人のためにならない

アを選んだ人が47.2%、イが48.7%です。
元々の意味は、アです。

我流の憶え方ですが「情けは人のためならず、自分のため」のように、心で言ったりしています。

では、何故人に情けをかけた方が良いかというのは今ひとつはっきりしません。
このことわざでは、自分のためだから人に親切にしなさいと言っているようです。
他人をサポート(援助)するのは、優しさからかもしれません。
巡り巡って自分に返ってくるという点では、因果応報かもしれません。

論語の巻代八、衛霊公第十五には、次のようにあります。

子貢問曰、有一言而可以終身行之者乎、子曰、其恕乎、己所不欲、勿施於人也
 「一生行っていくことを一言挙げると」
 「恕(思いやり)だね。自分の望まないことは人にしないことだ」

また、新約聖書マタイ伝にも
 「人からして欲しいと望むことをその通り人にしなさい」ともあります。

前置きが長くなりました。

利他性の経済学 -支援が必然となる時代へ」 

著者は、舘岡康雄さん、日産の人事部門でマネジメント方法の確立と伝承に従事されています。

この本は、「管理」社会が立ちゆかなくなり、「支援」社会に移行する時代が来つつあるということを自動車製造企業の現場から説得力をもって著している本となります。

自分(だけが)もうかれば良いと思う社会では、管理は有効に機能するのかもしれません。
管理があるということは、予測をすると言うことです。次に、予測をした通りに他人が結果を出すことを期待します。

予測が機能しなくなった時代には、管理は有効な手法ではなくなるのでしょう。

この本では、管理は機能しなくなり、支援、そしてその結果としての利他(他人を利するコト)が自分を利するコトのに有効なことを述べています。

例えば、工場の工程が4人で1人10日間の工程がある例が出てきます。
何事もなく進むと40日で終わる作業を考えます。
これが何回かの設計変更が起こるように仕組んで、お互いに支援をする例と自己中心的に動いた結果をゲーム理論を使って検証すると、、、
 自己中心的に動く場合は、最高160日かかります。
 お互いに支援する場合は、50日で終わります。

このこと一つをとっても、自己中心的に動くよりも支援をする動きの方が「得」です。

変化がゆっくりで、関係者が限られる世界であれば160日かかっても良いかもしれません。
変化が急速で、関係者が膨らむ一方の現代では、破綻を起こす「管理」よりも「支援」をお互いに行える環境を整備する方が「得」ということになります。

そう言えば、「後工程はお客さま」といった考え方もありますね。

管理を「させる/させられる」の考え方だとすると支援は「して上げる/してもらう」という考え方になるとのこと。

と言うことは、他人にしてあげた援助が巡り巡って因果応報、自分の工程を助けます。
助けてもらえるような人間や組織、環境になった方が良いですね。

してもらうことを丁寧に思い出して心理状態を改善する方法もあるとか。

支援がなぜ必要かといった理由がわかる一冊です。
博士論文を下敷きにしているので、少し難しい表現もありますが、人や組織における支援の必然性を考える際に必読の本です。

ちなみに、今までの管理と結果だけを考える考え方を「リザルトパラダイム」と呼んでいます。
そして、今から来るパラダイムも含めて並べると、
 リザルトパラダイム
      ↓
 プロセスパラダイム
      ↓
 コーズパラダイム
とのこと。

良い原因を創れば、良いプロセスとなり、結果がついてくるという考え方になるのではないかとのこと。
縁起、善因善果なのでしょう。

良い原因(コーズ)、良い流れ(プロセス)を創ってゆきたいものです。