学習する組織(01)学習する組織とは

学習する組織「学習する組織」という言葉を耳にしたことはありますか?

マサチューセッツ工科大学のピーター・センゲが「学習する組織」という書籍としてまとめ世界的に広まりだした、組織がより良く活動するための考え方です。

センゲは、著書の中で

未来を創り出す能力を持続的に伸ばしている組織

これを「学習する組織」と言及しています。

一方今までの組織は「権威主義的なコントロールを基盤とする組織」としています。

学習する組織では5つの学習領域(ディシプリン)と3つの中核的な学習能力が大切であると説かれています。

詳細は本に譲るとして、ちょっとした説明を綴って行きましょう。

学習する組織は、職場で取り組むには一見難しい考え方が並んでいます。

しかし、もう少しひもとくと普段でも取り組めることが判ります。

例えば、システム思考をすぐに理解し導入できればそれに越したことはありません。しかし、システム思考が取り入れられている意味である

出来事を全体として(システムとして)捉える
皆で意識を同じくする
冷静に原因を探る

ことができることを目標とするならば、対話を行ったり紙やホワイトボードに出来事や問題をちょっと書き付けて皆で考えることが第一歩となります。

そして、その第一歩を踏み出すために学ぶこととしては、例えば

・ファシリテーション
・ファシリテーショングラフィック
・反省し探究する方法(反省力)

などを学んで活用すれば良いということになります。

学習する組織、そして組織学習と聞くととても難しく思えます。

しかし、宮本常一の「忘れられた日本人」の寄り合いのシーンのように、統制でなく対話で全体性を捉えた問題解決や組織の営みはできていました。

学習する組織は、「お互いが工夫し向上し続けられる組織」と言い換えることもできると考えます。

以前、ピーター・センゲが来日したときの「学習する組織」のカンファレンスを後援させていただいたこともありました。
以来、研修やコンサルティングなどのベースになる大切な考え方の一つが「学習する組織」です。
「学習する組織」になろう!、と取り組もうとすると、何をしてよいやらゴールが遠かったりします。
しかし、案外身近なものの考え方や話しあいの仕方を変える練習をすることで、組織学習、学習する組織に一歩ずつ近づいて行くことを感じています。

学習する組織(02)5つのディシプリン

学習する組織「学習する組織」を耳にすると、5つのディシプリンと言う言葉が出てきます。

ディシプリン、、、甘党の好物のようですがさにあらず。

学習領域、規律、法則、訓練、修練   が訳語です。

学習領域、くらいで捉えておきましょう。

「学習する組織」では5つの領域で特徴があります。

分析的に捉えると、「学習する組織」を目指すには5つの領域を深める、とも考えられます。

5つの領域とは、ざっくりと

システム思考

  出来事や問題の相関性や全体性を認識し対処する思考法

共有ビジョンの構築

  未来像を皆で共有し創り上げてゆくこと

メンタルモデルへの対処

  自分と自分たちの考え方や判断基準の意識化と対処

チーム学習

  一人だけで無く、チームでのお互いの学習

自己マスタリー

  個人の成長と向上、熟練、学習意欲

学習する組織(03)順番

学習する組織学習する組織の5つの学習領域、

学び続け変化成長し続ける組織は、5種類の学びの方向性を持っているとしています。

システム思考
共有ビジョンの構築
メンタルモデルへの対処
チーム学習
自己マスタリ

システム思考という手法が有名になってきています。
ループ図とかが書けるようになるのも一つの目標です。

「学習する組織になりたい」と考えた時に、「システム思考だけ学べば良い」と考えるのはちょっと短絡的です。

一人で賢くなるだけであれば、ループ図の書き方を先に学ぶのも良いかもしれません。

しかし、ここで表現しているのは   学習する「組織」 です。

私と、あの人とその人と、皆と学び続け変化成長してゆくには、

 自分の取り組み   と  皆での取り組み  が必要です。

さらに、5種類の学びの方向性には、前提となる関係があります。

例えば、共有ビジョンの前には、自分のビジョンがある程度見えている方が良い取り組みになります。
自己のビジョンが見える過程で、自己マスタリ(向上心)が明確になります。
これが前提となる関係です。
ただ、5つの領域もはっきりと区切られたものでは無いので、自己マスタリを完全に終えないと次に行けないという訳ではありません。

さて、少しさかのぼる形になりました。

学習する組織、もしくは組織活性化・職場力向上に学習する組織を活用する際にはどこから始めれば良いでしょうか。

一つのアプローチ方法は、自分の向上心の根っこを探究することになります。

向上心の根っこを探究する方法は、AIを活用するなどいろいろあります。

学習する組織(04)実践コミュニティ

近年、目に見える組織編制学習する組織だけではない、人と人とのつながりをビジネスの活動に活か
そうという動きがあります。

ビジネス組織・企業は、部・課・事業部・ビジネスユニット・海外法人といった形で組
織を編成しています。

企業に所属している人々によってビジネスは動いています。
所属している人の専門分野は多種多様であり、その人の専門分野の活動を通じてビジネ
スに貢献しています。

ここで、所属している人々の興味は自分の専門領域に向くことも多いことでしょう。
そして、同じ興味領域・専門領域を持つ人々が集まれば、専門分野の知識は実践への知
恵、新たな発想が生まれます。
職場の先輩や同僚、身近な環境に同じ専門領域を持つ人々がいれば相談することも多い
でしょう。

ところが、現在のビジネス環境では、「広い地域」「早い変化」「不明な原因」「狭い
専門性」といった要件により『お互いに切磋琢磨する仲間』が身近では集まりづらい状
況に陥っています。

ここで、現在有効と考えられているのが

実践コミュニティ community of practice です。

職制に縛られない、企業も、地域も跨いだ「専門領域の実践情報を共有するコミュニテ
ィ」がビジネス活動にも非常に有効であると注目されています。

とある大企業の例では、実践コミュニティを通じて数千万ドルの新規の売上とコスト削
減を達成できたということです。

ここまで具体的でなくても、社外勉強会が役に立つことが多い、、、知識だけでなく、
人脈や勉強会におけるコメントが役に立つ。
こういったことを感じる方もいらっしゃると思います。

こういった、実践コミュニティを実際に運営し始めているところが多くなっています。

私たちも、いくつかの実践コミュニティを主宰したり、参加したり、導入の支援をした
りしながら、その有効性をひしひしと感じています。

実践コミュニティl、運営のコツ、利点、欠点も当然あります。
一言にすると、盆栽やガーデニングにも通じるようにも思えます。

実践コミュニティ(01)育成の7原則

学習する組織技能の継承といったテーマが新聞を賑わすことも多くなってきました。

団塊の世代が多く退職することを受けて、技能伝承の隔絶、これへの対応がなされ始めています。

技能、英語にするとナレッジ(知識や知恵)でしょうか。
(知恵だとWisdomというお話もありますが…)

技能伝承を行う仕掛けとして、匠に学ぶ寺子屋や私塾を社内に作る試みもあります。
言わば現代の徒弟制度といったところでしょう。

技能伝承という表現をしていますが、技は個人ではなく集団に蓄積されていると見ても良いのだと思います。

さて、こういった集団を分析的に見て、知識を創造しようとする動きがあります。
知識が集団から創造されるという特性を活用しています。

そして、この集団は知識を使いながら、学びながら、身につけ、知識を創造して伝えることから

『実践コミュニティ』 という表現をしています。

では、実践コミュニティを育てるにはどのようにすればよいでしょうか。

書籍「コミュニティ・オブ・プラクティス」を参考にしながらまとめてみます。

今回は原則的な所から

実践コミュニティは、私なりにまとめると、
「何か使いたい、深めたい専門的な分野があり、多くの方との協力で使いながら深めてゆく」
といった特質を持っています。

そして書籍によると、実践コミュニティを育てる原則は次の7点です。

1.進化を前提にした設計を行う

2.内部と外部それぞれの視点を入れる

3.様々なレベルの参加を奨励する

4.公と私それぞれのコミュニティ空間を作る

5.価値に焦点を当てる

6.親近感と刺激とを組み合わせる

7.コミュニティのリズムを生み出す

実践コミュニティは、専門分野に関心のある人たちが集まってきます。
その専門分野のどのようなコト、どのような部分が大切か。
これが最も重要になってきます。

そして、コミュニティは会社の職制ではありません。人の出入りも関わりの濃さも自由です。
半年後には、業務多忙で関わりが薄くなるかもしれません。

そして、何か定期的な会合や飲み会、ネットでの会話やイベントが合った方が楽しいです。
直接会うとかなりの知的な刺激、関係性の刺激にも富んでいます。

そして、特に親しくなった人や、事務局がキーマンに下交渉する時もあるでしょう。

コミュニティ外の人との会話が、岡目八目、良い指摘になるかもしれません。

こういったことが、上記の原則となっています。

知識や実践、そして運営等の手間をかけることについて、テイク(取る)だけではなく、ギブ(与える)姿勢やギブしてくれることに感謝をすること大切でしょう。

ちなみに、実践コミュニティを作り上げる。と言った、上からの目線では、なかなかうまく行かないようです。
せいぜい、育てる。一緒に育てる。といった意識が良いようです。

実践コミュニティ(02)発展段階1(潜在)

実践コミュニティは、企業組織体と比較すると、自然なサイクルで生成と消滅をします。

それを「コミュニティの発展の5段階」と言っています。

 潜在 → 結託 → 成熟 → 維持・向上 → 変容 です。

第一段階は、 『 潜在 』 です。

コミュニティの発展は、すでに存在する社会的ネットワークから始まる、ということのようです。

仲間が何人か集まっていて、「これって面白いよね」 ということは多々あるでしょう。
「困っているんだ・・・」「相談に乗るよ」
こんなことも多くあるかもしれません。

これだけで終わることもあるかもしれませんが、そのうちのいくつかは、

「仲間でも集めようか」 とか 「興味のある人と自然に集まった」

といった状態になることでしょう。
これが実践コミュニティの始まりです。

「何だ」という感想をもたれるかもしれません。仲良しグループでもよくあることです。

これを実践コミュニティとして形づくるには、

・関心を持つ領域の範囲を定義する
・仲間で知識共有を進める意義をお互いが気付く
・仲間がどのような知識を必要としているか割り出す

こういったことが必要になります。

さらに重要なのが 「コーディネーター」です。
リーダーと言っても良いかもしれませんが、どちらかと言うとお世話役になります。

コミュニティにおいて、みんなの関心領域の焦点がぶれないようにして、様々な手助けをします。

関心分野があって、多くの人が集まっていると、連絡一つや何かの日程決めを行うにしろ手数がかかるものです。
労を厭わないお世話役、周りにいませんか?
ネタ(関心分野)があって、仲間がいる、ネタのイメージもクリアで、実践で使える。そしてお世話役がいる。

徐々に実践コミュニティが育つ環境が出てきています。

実践コミュニティ(03)発展段階2(結託)

実践コミュニティの発展段階を解説しています。

 潜在 → 結託 → 成熟 → 維持・向上 → 変容

今回は、第二段階 『 結託 』です。

一言にすると、「絆を深める」 こういった段階となるでしょう。

第一段階では、関心の分野があり、そこに仲間も加わった。お世話役もいるでしょう。面白そうな分野の対話が始まっている感じです。

そして第二段階では、何が必要になるでしょうか。

それは「信頼関係」です。

関心のある分野について「深い話し」をするときには、自分の価値観を話すのと同じになってきます。つまり自己開示です。
自己開示ができる他人は信頼関係のある人になるに違いありません。
従って、第二段階の実践コミュニティとなるには信頼関係が必要、とも言えます。
または、信頼関係が深まると第二段階の実践コミュニティになってくるとも言えます。

第二段階の「結託」の状態である実践コミュニティのポイントです。

・参加する根拠、価値観を明確にする
・コミュニティを立ち上げる
・コミュニティのイベントや空間を創る
・コーディネーターに正当性を与える
・コア・グループのメンバーのつながりを深める
・共有する価値のあるアイデア、洞察、実践を見つける
・文書化は慎重に行う
・価値を提供する機会を逃さない
・上司を巻き込む

関心のある領域と、それを話せる有能な仲間がいます。
「定期的に合って話しでもしてみようか」と話し合いや実践のコツの交換が始まります。
「では、このグループに◎◎◎という名前を付けようか!」とコミュニティが発足し、
「お世話役は、Aさんだとだれも文句は無いよな」と極々正当なコーディネーターが決まります。
「仲間になるには、△△を大切にしてもらいたいよ。そういう人に入ってもらいたいな」と参加・仲間への根拠が明確になり、信頼関係を増す様々な対話が起こります。
「電子メールか、掲示板、SNSで情報交換でもしようか」とコミュニティの空間ができ、「来月も集まろう」とイベントがリズムを与えます。
大切な関心分野を毎回深めて、加重な作業でいやにならない程度にまとめ(文書化)が起こります。
自分たちの存在意義を示せる時には十分にアピールし、上司や周りにコミュニティの価値を認めてもらうようにします。

どうでしょうか。
身近なグループで良いセン行っている集まりはありませんか?

その集まりは既に実践コミュニティかもしれません。
となると上記のポイントに気をつけると、コミュニティは「結託」の状態を経て順調に育ってゆくことでしょう。

実践コミュニティ(04)発展段階3(成熟)

実践コミュニティの発展段階を解説しています。

 潜在 → 結託 → 成熟 → 維持・向上 → 変容

今回は、第三段階 『 成熟 』です。

一言にすると、「境界ができる」 こういった段階となるでしょう。

第二段階では、同じ関心を持つ人との対話があり、信頼できる関係性が築けています。

第三段階、「成熟」の段階では何が必要になるでしょうか。

それは、『集中と拡大』 です。

興味のある話題で、信頼できる仲間もできてくると次に来るのは、
「面白いから仲間を誘おう」とすることです。
興味や関心のある人が該当すると考えた仲間を誘っています。徐々に参加者が増えていきます。
参加者が増えると思惑の違いが出てきます。
そして、古株の人が既知なものについては、新しい人への利便などのために知識が蓄えられ表現がされてきます。
仲間の増加が多くなってくるので参加の手続きなども整備されてきます。
仲間が多くなるに従って、求心力は何かを求める動きも出ます。

関心分野とコアなコミュニティが魅力的なので、参加者の増大という拡大が働きます。
そして、既知の知識や思いなどへのブレを感じることなどから集中が働きます。

皆さんのコミュニティでも、人が増えていく段階ではこのようなことがありませんでしたか?

こうなってくると「成熟」の段階です。

第三段階「成熟」の段階の実践コミュニティのポイントです。

・関心の領域が組織で果たす役割や、他の領域との関係を明らかにする
・コミュニティの中核的な目的から関心が逸脱しないように気をつける
・アイデアなどの共有から、知識の体系化や関心領域の知識の世話役となる
・メンバーや領域が拡大するので、メンバーの関係性や信頼を失わないようにする
・加入の手順や既知の知識を伝えることを手順化する
・知識を使いやすいように体系化し、蓄積、更新する

少人数で始めた勉強会、徐々に人数が多くなってきたりします。
人の出入りが手順化されていれば戸惑うことも少ないです。
また、勉強会の主旨や目標などが明文化されて古株のメンバーから補足説明があれば、新しいメンバーも参加しやすいことでしょう。
そして、勉強会の結果は「成果として残そう」という機運が高まることも多いことでしょう。
そうすると「私がとりまとめよう、ホームページでも作ろう」と知識を体系化し明文化する司書役の人も出てくるかもしれません。

こうして実践コミュニティは、臨むならば多くの参加者や知識の体系化や信頼関係を育みながら成長してゆきます。

実践コミュニティ(05)発展段階4(維持・向上)

学習する組織の実践コミュニティ、その発展段階を解説しています。

 潜在 → 結託 → 成熟 → 維持・向上 → 変容

今回は、第四段階 『 維持・向上 』です。

一言にすると「勢いの持続」の段階です。

うまく続いてきた仕事(や趣味)の集まり。
やりたいことやできることも明確になっていて、ドキュメントやツールといった再利用できるものもあります。
自分たちが関わっている分野は、社内で、業界で、日本で、世界で1番という意識が芽生え、1番であることの参画感や誇りを持ちます。
所属組織から公に認められ、期待されることも多いでしょう。

こういった状態のコミュニティが活気を保つには

周りの環境に合わせたテーマへに取り組んで、新しいメンバーに参画してもらい、活動の境界を再設定し直すことが必要です。

具体的には、

・発言権の制度化
・コミュニティの活性化  アイデア、メンバー、実践の機会
・思いの再確認
・コアグループへの新人参画
・新しい指導者の育成
・新メンバーの指導
・組織外との関係に注意を払う

といったことを行う事になります。

バランスが良くなってきたら、新陳代謝に気をつける。
このような感じかもしれません。

実践コミュニティ(06)発展段階5(変容)

学習する組織の実践コミュニティ、その発展段階を解説しています。

 潜在 → 結託 → 成熟 → 維持・向上 → 変容

今回は、第五段階 『 変容 』です。

一言にすると「別なあり方への脱皮」の段階です。

多くの仲間、専門家と続いてきた実践コミュニティ。集会や掲示板、メーリングリスト。

参加する人たちの業務の環境や生活の環境、そして実践コミュニティをとりまく外部環境の変化、コミュニティの様々な成果、徐々に状況が変わってきます。

実践コミュニティの発展段階の第五番目は、コミュニティの 『 寿命 』に着目しています。

どのような健全なコミュニティでも寿命を迎えます。

強固な地域コミュニティが疎遠になってしまう、などなどあるでしょう。

寿命を迎えた実践コミュニティは次のように推移するとのことです。

・衰弱する
 メンバーの活力が失われて、活動そのものが無くなってくる

・社交クラブとなる
 そもそもの目的・目標を目指さずに「集まること」が目的となる。実践も行われない。

・分裂や合併
 似たようなテーマのコミュニティが合わさったり分裂する。

・制度化
 公的な組織などに組み込まれて、コミュニティとしてあった繋がりが変わる。

できたものは他のものになるという点では、まさに諸行無常です。

悪い、といったことではなく、必要とされて続いてゆく時期が過ぎてゆくようです。

炭鉱の町が寂れてゆく、のようでもあります。

但し、なんとなく終わってしまうのではなく、「自分で終わらせる、区切りをつける」「手放す、引き継いでゆくものを明らかにする」ことも重要です。